芸術に拍手

全記事ネタバレ祭り。レポと感想と妄想が大渋滞起こしてる。

Erosion ~イローション~

 

『Erosion 〜イローション〜』

2017/8/22-8/27 シアターブラッツ

 

「娘を祝ってほしい」
そう頼み事をして来たのは古びたおもちゃ屋さんの女性だった。
渋々お願い事を聞いた男達に待ち受けていたのは、きっっっっつい稽古ととっっっってもつまらない寸劇だった!!!
いつしか女店主の厳しさに感化されたのか、寸劇をより面白くしようと男達は燃えていく。
そして、ついには台本を無視した主人公争いが始まってしまうーーーーーー!?
自分が主人公だと全員が台詞を増やし、シーンを増やし、そして次々と相手の邪魔をしていくのだった!!
負けず嫌いの男達が描くドタバタコメディーーーー!!
「自分が主役だーーーーーー!」
………のはずだった。待ち受けていたのは衝撃のラスト。

公式HP: http://am-bition.info/erosion.html

 

 

 

 

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8/23 1列下手

8/26夜 6列上手

にて

 

 

久しぶりの小劇場観劇な気がします。

シアターブラッツ初めて行きました。思ったより狭かったです。

そして何より控えめに言って椅子がヤバい。椅子がマジで、ヤバい。すごい、背骨が、ヤバい。前アナで「上演時間は90分」と聞いて正直めちゃくちゃ安心した。

 

今回は少しストーリーを詳しく書きます。重大なネタバレなので万が一DVDで見る予定の方はお気を付けください。

 

 

 

登場人物は場を収める係な隆志(上田悠介さん)、荒っぽい龍(五代了平さん)、温和な瑛作(足立英昭さん)、弱気な拓(舘野将平さん)、お調子者の宏次朗(重友健治さん)、皆の憧れアキ姉ちゃんこと明恵*1(鎌田ひかりさん)、あと名前だけでアキ姉の夫マサトと娘チエミ。

コメディと聞いていたにも関わらず、序盤勢い弱めで、大丈夫かなと思わんでもなかった。

しかし寸劇の稽古が始まってアキ姉が演出家もとい軍曹化したあたりから勢いづいてきて、音響照明付き稽古ではかなり笑わせてもらいました。即興芝居で、林(のSE)役がいつの間にか森の声となり自然を説くとか、あるあるネタなのに笑っちゃう。

私はまともにエチュード等やったことはないが、日常会話で稀に発生する茶番劇を思い出した。個々の設定の主張が激しい感じが。

 

日替わり箇所の、瑛作が考える主人公とラスボスの名前、26日夜は「リ〇ゴ・スター」と「チャ〇・ド〇ゴン」でした。23日は確か「森〇中」とかお笑い芸人の名前だったかしら。DVDはブ〇ース・リー…〇ルー・スリー?ときんぽう?だった。

あと瑛作(足立さん)による隆志(上田さん)の評価が23日は「丸顔でガタイ良くてびちょびちょ」、26日夜は「丸顔で丸顔で丸顔」。丸投げである。

拓の筋トレ内容が腕立てだったりプランクだったり、意外と日替わってたね。

 

寸劇の目的、最初はみんなアキ姉のこと好きだから「アキ姉のために!」、最終的には「誰が一番目立ってアキ姉の気を引けるか!?」となります。

このまま楽しく続くのかと思いきや、中盤から徐々に隆志の様子がおかしくなる。

絶対にチエミちゃん関連で何かあると思って警戒はしてました。というか私の中では、チエミもう死んでる説が有力だった。

そして隆志が下手に座り、虚ろな目をしながら他の4人と台詞をシンクロさせる、4人は最初から誰もいなかったかのように捌けていくあたりで、ふとタイトルが脳裏に浮かんで、気付きました。イローション、この物語のトリック、多重人格。

 

あながち間違いではなかったですね。この娘のための小演劇はアキ姉が、娘を殺そうとした「人格」に復讐するために図られたものだった。

でもその人格「だけ」殺すなんてまず出来ないわけで、ここら辺、アキ姉もなかなか狂ってるなぁと。実際、隆志の殺人人格を見極めようとし始めた頃からのアキ姉は目が血走っていると思わせるほど鬼気迫るものでした。

 

アキ姉の夫は過去にDVの前科があり、「現在もそれが続いている、でもチエミが産まれてしまったからアキ姉は夫から離れることができない」と隆志は思い込み、葛藤の末、隆志の中の悪人格龍が全ての人格に勝り、チエミを絞め殺そうとした。

アキ姉を助けるという他人の為、ひいてはアキ姉を自分のものにしたいという自分の為の行動だった。

しかしラストシーン、今まで隆志の人格を演じていた4人は、アキ姉の人格となりアキ姉の精神葛藤を語り出す。アキ姉は隆志を龍だと思い込もうとする。

アキ姉も隆志と同じであり、誰でも複数人格を持っているんでしょうね。

 

 

こういう陽と陰の落差が激しい話は大好きです。

陰を際立たせるために陽を創るのは物語作りの定石だと思いますが、定石って面白いから定石足り得るのだと思います。

中弛みもなく、本当に面白かったです。

2回観ましたが、真相分かってると違う見方もできて良かった。

 

役者さんもみんな良かった。顔と人格が合ってて分かりやすい。(一部に失礼)

上田さんの多重人格演技も素晴らしかったし、皆さんの陰と陽の演技差もとても良かった。

服装もよく見たら、みんなジーンズは統一されててトップスがそれぞれの特徴表したカラーなんですよね。上田さんだけド派手なタイダイ柄でヤッベーなとは思ってましたが。

関係ないけど足立さんと舘野さんの髪が綺麗すぎる。

 

しかし婚前のDV野郎がただ結婚したからってそう簡単にDV止めることなんて出来るのかな。そこがちょっと疑問で、本当にアキ姉は幸せだったのか分かりかねる。

あと隆志とアキ姉ちゃん、幼馴染みとは劇中では言われてるけどパンフレット見たら名字同じなのよね。従兄弟なのかな。でも普通、従兄弟で「幼馴染み」って呼ぶかしら。

最後の台詞、アキ姉がチエミちゃんを「お祝い」してしまったから、やっぱり隆志を殺してしまったんだろうなぁ。

あーでも、最後の演出考えると隆志含めて明恵の人格って考察も面白いかもなー。結局夫のDVは続いててチエミ消したら夫から離れられると思った明恵は人格隆志(龍)により娘を殺し、その記憶を消すために隆志ごと殺そうとした、みたいな。

 

そういえば今回、不思議な感覚があって。
小劇場で全体見えやすいからかもしれないけど、後ろの方で見てても観客の挙動がほぼ気にならない、むしろ観客の様子を見てもすぐ舞台上に集中力が戻せる、という。
何言ってんだって感じなんですけどわたし普段めっちゃくちゃ周りの雑音、途中入場などの大きな動作が気になるんですよね。すぐイライラしてしまうのですよね。

この舞台でも色々ありましたけどね、携帯鳴ったり上演中の飲食だったり、いや携帯は流石に、ヴァー!!ってなったけど。それを見てもすぐお芝居観る方に集中できた。

客側が喋るのも言語道断で、ぜったいにゆるさないからなって気持ちを一生引きずるのですが、拓が本番衣装で出てきた瞬間に小さいお子さんが「きもちわるい」って言ったのは、あまりに純粋なる感想かつ同意すぎて笑ってしまいました。もう微笑ましかった。私の心の常識を覆してくれてありがとう少年。

 

 

久しぶりにストレートのオリジナル舞台観て、改めて演劇って良いなぁと思えました。

オリジナルストーリーの舞台は、マジでそもそもの話が分からないからこそ緊張感が凄まじい。読書と似ているけれど、生のそれはやはり読書で感じる感動とは異なるように思います。

特に私は、ストレートの現代劇は生々しく感じすぎて苦手な部類でして…。だからドラマもあまり見ないし…。Erosionも、結構悩みに悩んで、一公演だけにしておいた。

結果、チケット増やしたわけですが。スケジュールが許せばもう一回くらい行きたかった。代わりにDVD買った。

博打世界の中、また観たいなぁと思える舞台に出会えて幸せです。

 

良い舞台を見る度に思うのは、この作品をあれだけの人しか観られないのは勿体無い!ということ。

 

 

 

 

★★★★ 

*1:DVDの特典映像見たら名字はミヤらしい