芸術に拍手

全記事ネタバレ祭り。レポと感想と妄想が大渋滞起こしてる。

カレイドスコープ -私を殺した人は無罪のまま-

 

カレイドスコープ -私を殺した人は無罪のまま-』

2020.2.20-3.1 新宿FACE

ある日、別荘で首を吊って亡くなっていた森田かすみが発見され、夏樹陸が容疑者として浮かんできた。

しかし、他殺と見られたその事件は「自殺」と判断され、夏樹には無罪判決が下った。

「判決・・・無罪」

娘を失い、気持ちの整理をつけることができない森田凌平は、時間が止まったような生活を送るようになった。

それから半年後の冬、凌平の身を案じた親友の伊藤健一により「凌平の為に真実を追求する」という名目で、判決に疑問を持った10人がかすみの亡くなった別荘に集められた。

そして始まる、あの時のあの場所で一体何が起きたのかという話し合いが・・・。

事件と裁判の一部始終を追いかけている新聞記者の浅井幸助。凌平の会社の元弁護士で今は検事の馬場貴明。いつもかすみを見守っていた中学校の担任、影山雄太。事件の被害者に寄り添う活動をしている五十嵐智久。世間体を気にする凌平の姉で、かすみの叔母でもある鯨井祥子。祥子の娘で、かすみを妹のように思っていた鯨井久美。

自殺か?それとも他殺なのか?各々が主張する推論と矛盾に閉ざされた空間で、凍てついた感情だけが過ぎてゆく。

一体どれだけの沈黙が続いたのだろうか・・・。時計の針は無情にも正確に時間を刻んでいく・・・。

謎に包まれた事件の真相を巡り、集まった10人のむき出しの感情と本心を鋭く暴いていくサスペンス密室劇。

残酷なパラドックスの果てに導き出されるテーゼを知ったとき、人は本当の優しさの意味を知る。

http://kaleidoscope-stage.com

 

 

2.21 東1列 南寄り

3.1 南5列西寄り  にて

 

 

 

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3/1は急遽昼公演が中止になる。夜公演は吉谷さんが代役をやると13時頃告知が。

この日昼間用事があって偶然都心に出てきていたのですが、吉谷さん代役に興味が湧きすぎて(すみません)、悩んで一旦帰路に着くもUリターンして急遽当日券並びに行きました。当日券、40人近くいたかな。

 

 

谷碧仁さんと吉谷光太郎さんで勝てないはずがなかった。*1

1時間50分が、本当にあっという間だった。2/21、開演前にFACEのドリンクバーでレモンサワーを一気した状態で臨みましたが(飲むな)、集中力のなさに定評のある私が全く意識が舞台から切れることなく見入ってしまった。レモンサワーは全部抜けた。ただしパイプ椅子で尾てい骨は痛かった。

完全なストレート会話劇、出演者はメインキャストのみ、舞台セットも固定という中、普段の吉谷光太郎さんの特徴とも言える演出手法はほとんど見えなかったんだけど、見せ方に本当に飽きがこない。やはり吉谷さん信頼できる…となってしまった。

 

心理的変動が複雑かつそれが登場人物全員にあるので、全員を深く追うことはできなかった。目も足りないが脳も足りない。谷さん脚本の大どんでん返しが3回くらいあって、なんだか爽快感すらある。

そして、「客が何故泣いているのか分からない」という初めての経験をした。私の感受性が死んでしまったのか?登場人物の感情の大きさは分かる。役者も泣いてる。客も泣いてる。でも自分の泣き所、心が共鳴する箇所が分からないという。泣ける話の定義ってなんだろうと考えてしまった。

それにしても難しい。2回観たら分かるかな、と思ったけど、2回観たら余計に分からなくなった。いっそ「考えるな、感じろ」タイプの舞台なんだろうか。いや思考止めたら失礼な気もする。

現実世界の話だからこそ、理解や共感はファンタジー以上に自分の経験から直結して発生するのかもしれない。自分はそこがハマらない人間だったのかもしれない。自分が単純に理解力がないのかもしれない。パンフ買えば良かった。

 

舞台セットはセンターに重厚な長机といくつも椅子。最前列には客用のパイプ椅子じゃない椅子が置かれてて、普通に役者が座る。

四面は客席に囲まれてる。最前客と同列に役者が座るから、客席がまるで傍聴席、客も演出の一部のようだった。特に千秋楽のマスク絶対着用公演*2はみんな生きてるのにどこか無機質で異様な雰囲気。

初見は最前列だったんだけど、足が舞台の領域を踏むしかなくて、絶対に舞台という板を踏みたくないマンはどうやって座りに行けばいいか一瞬迷ったし、座っても足元が落ち着かなかった。とはいえ、通路演出も多く、最早センターだけじゃなくて新宿FACEの空間が舞台だったわけですが。

客席四面なので、当然「正面」というものが存在しない。キャストの表情は絶対に全員に見えるようには作られていないから、「この時のこの人の表情、重要じゃない?」というのが存在しないと思う。というか正しくは「全てが重要」、かな。一番客席数が多い南側からの景色も観てみたかった。

 

開演20分くらい前から開演前演出あり。これ自分が行った2日目からだったらしい。森田かすみが椅子に座って雑誌を読んでいるのと、五十嵐が客席に署名を求めに来る。五十嵐もといりゅこさん、2/21公演では署名に書かれた名前をひたすら褒めるマンで面白かった。流石やで。ちなみに署名しました。書いてる最中に「ボケなくていいですよ」と言われました(全くボケてない)。

 

 

以下ネタバレあり。

 

 

 

 

 

森田かすみは他殺であるとして、裁判の最高裁を行うか否か。初めはみんな他殺だと思っていたが、話し合いの中で、敢えて隠されていた"真実"、自分にとって"信じたい事実"が露呈し始め、徐々に自殺なのではないかと場の意見が傾きだす。

娘は幸せだった、娘には自殺の動機がない、と自殺を否定する森田凌平は激昂する。しかし最後に現れた容疑者夏樹陸が語る事件当日の"真実"、「森田かすみは父親を憎んで自殺した」と聞き、自分は被害者ではなく加害者であったと絶望する。

「決をとりましょう」と、主人公の伊藤健一は言う。満場一致で森田かすみは自殺であり、最高裁は行わないという結論で会議は終了するように思えた。

その時「森田かすみが父親を嫌いだったはずがない」と新たな"真実"が浮上する。本当の真実を問われ、夏樹陸は自白する。「お父さんのこと好き?」の問いに対する森田かすみの答えは「大嫌い、死ぬほど」ではなく、「大好き、死ぬほど」だったと。夏樹陸は最高裁を行わないようにしてやると伊藤健一に言われ、嘘をついていた。伊藤健一の目的は、自身の劇団を辞め成功した森田凌平を絶望させることだった。

"真実"は、森田かすみは大好きな父親に振り向いてほしい、幸せな他人を羨やんだことからの自殺だった。

 

ストーリーは、前半や登場人物の背景かなり端折ったし結論とか大事なとこズレてると思うけど、こんな感じかなぁ。書いておかないと忘れるんで結末までのネタバレすみません。この舞台、時系列も具体的な内容も不明な「伊藤健一と森田かすみの会話」で始まって終わるのですが、この時の「恨んでる?」「ううん、誰も!」という会話が真実かつ現実の会話かも分からんのですよ。

 

角度によって全く異なる景色を映す万華鏡。見たい景色、見える景色は人それぞれ。「カレイドスコープ」というタイトルからして、そんな人間の心理模様がメインテーマだったと思う。ここは一目瞭然だったから、ある意味ここはエンターテインメント性があった。

感情面では私は最後のセリフの「独りは寂しいんじゃなくて、悲しいんじゃなくて、全部羨ましいんだ」がずいぶん刺さりました。直感的に「分かる」と思った。それにしては「久美ちゃんのお父さんより、私のお父さんの方が優しいんだよ」のシーンで私が泣かなかったのが我ながら不思議なんですけど(周り泣いてるけど何で泣いてるのか分からなかったポイントその1)。

サブタイの「私を殺した人は無罪のまま」は、言い得て妙かつ良いミスリードだった。そういうの大好き。観て結末を知った後でも色んな捉え方ができるよね。殺した人は、夏樹陸なのか、森田凌平なのか、鯨井久美なのか、森田かすみなのか。

 

浅井が言う、伊藤健一が「森田凌平を嫌いきれなかった。最後に守ろうとした」ってのがよくわからなかったんだよなぁ。人生の成功者である幼馴染を絶望させて敗北者の自分に依存させようという、最高に歪んだ嫉妬と愛情だと思っていた。だから仮に本人の中で守ろうとする意思があったとしても、既に他者にとっては意味をなしてないと思っていたんだけど……捉え方の違い……?

 

輝馬さんの馬場さん、というか輝馬さんがキングオブ検事*3すぎて、顔で職業選んだんか?って思った。今後輝馬さんのこと紹介する時、ハイキャリアの擬人化って言うわ。そんでただの石頭ド偏見検事かと思いきや、実はかつては真実から正しい判断をしようとしていた大真面目人間って。その片鱗が些細な言動から見え隠れしているもんだから、浅井さん(君沢ユウキさん)にそれを見抜かれ弱点として突かれるとか。俗な感情だけど、正直可愛い人である。馬場さんカレスコの中で一番好き。あとあんな暴力的スタイルのワイシャツベストがオフィスにいたら職場崩壊するから輝馬さんが役者の道を選んでくれて良かった。

君沢さんのジャーナリストも似合いすぎか。誰よりも声がデカくて通りが良くて、テニミュ2nd厨は改めて「渡邊オサムとして100億点だな」と思いました。

りゅこさんの新興宗教団体と遺族団体の絶妙な隙間を突くキャラクターは何なんだ。どこからどう見ても胡散臭くて「分からない」。磯貝さん自身はいつも笑いのエンターテイナーだけど、今回もこの重い重い会話劇の中の唯一の笑いどころを作ってましたね。桑野さんへの「優しい目」の強要、笑わせんな。ツボって引きずるから。

そんな優しい目の桑野さんは相変わらず、こちらが思わず引いてしまうようなゾッとする演技をされる。個人的「三大怪演俳優」の一人です。*4 すごく近いところに来る時があったんだけど、立ってるだけで何か圧のようなものを感じた。そんなに身長あるわけでもないし顔も厳つくないのにね。

 

 

3/1夜の千秋楽の話。

コロナによる世間の度重なるイベント中止状況に加え、ジェーさんのインフル降板。今までにない空気のカーテンコールだった。

君沢さんは自分の挨拶の時、泣いてた。「全員が欠けることなく、千秋楽を迎えられた」「このカンパニーだからやり切れた」よく千秋楽で聞く言葉だが、こんなにも真に迫って感じることはあっただろうか。磯貝さんが真っ先に吉谷さんの話し始めたのには、好きすぎるでしょって思った。泣きそうになってたけど天を仰ぎ目頭押さえて「あー笑いそう」といういつもの誤魔化し芸。かわいいね。

吉谷さん挨拶の「吉谷タブレット光太郎です」は笑った。本当にお疲れ様でした。

何が正解かすら分からない状況で幕を開けることも悩んだと言う。初っ端、「このタブレットで探してたんですが」と聞き覚えのない台詞と見慣れないタブレット持ってたから、おやと思ったけどすぐ合点がいった。これ紙台本だったら理由付けすら難しかっただろうし、文明の利器だね。このタブレット、吉谷さんいわく、ジェーさんの借りたそうです。魂と一緒に舞台に立ったと。代役やれたのはジェーが指示してくれたと思っていると。どうしてここはまた、ドラマを生むんだ。

 

最後はトリプルカテコのスタオベ。四方客席だから、スタオベを初めて真正面から見ました。

すごい密室会話劇だったな。また谷碧仁さんと吉谷光太郎さんでタッグ組んでほしい。

 

 

 

 

★★★★

*1:千秋楽カテコで君沢さんが「顔合わせした時に、勝ったなと思いました」と言っていて、キャストも同じ語彙チョイスをすることに驚いた。勝敗に例えるの、オタクの言い回しかと思ってた。ニュアンス違うかもしれんけど。

*2:全く演出というわけではなく、ガチコロナ防止策。スタッフさんが巡回して、マスクしてない人には運営側からマスク配ってた。

*3:全然関係ないんですけど脚本演出吉谷さんのキングオブダンス楽しみです

*4:三大と言ったけど今のところ挙げられるのは安西慎太郎さんくらい。