『「野球」飛行機雲のホームラン 』
2018.
7.27-8.5 東京 サンシャイン劇場
8.25-26 大阪 梅田芸術劇場シアタードラマシティ
公式HP:https://www.homerun-contrail.com
8.4 昼 9列目上手にて
届かなかった、あのマウンドに—
少年たちの生きた夏
1994年—
戦況が深刻化し、敵国の競技である野球は弾圧され
甲子園は中止されていた。
甲子園への夢を捨てきれず予科練に入隊した少年たちは、
「最後の1日」に、出身校同士で、紅白戦を行う—
甲子園優勝候補と呼ばれた強豪・伏ヶ丘商業学校。
実力は未知だが有力と思われる会沢商業学校。
野球への憧れ、強い仲間への憧れ—
「憧れ」を通して、
人が生きていく力、「生きたい」という希望を描く。
何故観に行こうと思ったのか覚えていない。推してるキャストがいるわけでもない。
観劇歴6年、観てきた舞台の種類は150は優に超える。
これまでで一番泣いた。盛り一切なしでボロボロだった。猛暑による汗ふき用のハンカチを持ってて良かったと心底思った。 多分、上演時間のうち半分は泣いてたと思う。嗚咽の声を出さない努力と、しゃくり上げで席揺らさない努力をしたのは初めてである。
私が生まれて初めて劇場で泣いたのは2013年の『見上げればあの日と同じ空』*1という舞台なんですが、これも特攻隊がベースの作品。主人公と親友が駅伝選手で、スポーツが共にある辺りが少し似ているな、と『野球』観劇前から思っていた。人それぞれ、笑いのツボのように、涙腺のツボってあると思う。それが私の場合「特攻隊の話」なのかもしれないが、それにしたって泣きすぎた。
OPでは登場人物の、あったかもしれない未来や夢が具現化されている。彼らが最後に選んだ生き方が野球をすることだった。「これは戦争ではない、野球だ」と言う。「ああ、野球だ」と言う。生きて、野球をする、ただこれだけのことが、彼らにとってどれだけ尊いことだったのか。
物語は最初から最後まで野球一試合で、途中途中回想や同時進行のエピソードが挟まるからある程度混乱はあった。しかもキャストをあまり分からず行ったもんだからまず顔の判別が安西多和田伊崎松田しかできず、背番号で判断するという。休憩で確認して、アッこにせも聖ちゃんも出てたんだ…と気付く。名前も、何故一幕でしんたくんがホヅミとかヒトシとかキンとか色んな名前で呼ばれてるのか分からなかったものの、休憩で確認して以下略。
土に還る先生の名前だけは最後の最後まで分からなくて、「菊池が……」と報告されていたタイミングがどこだったか分からなかったのが悔しい。ちゃんとイントロダクションは読みましょうね。菊池先生、前半はあんなにギャグ担みたいで可愛いキャラだった…からこそ、後半の抉られ方が凄かった。
ともあれ、ストーリーやキャラクターに関して混乱はするが、結局これは野球なのだ。一生懸命野球する人を観る舞台。重いけど、ラストで宙を舞う野球帽のように心が解放される野球を観る舞台。
そう言った直後に野球外エピソードの話をするのも野暮だけど、どこで泣いてたかもはや分からないくらい泣いてた中でも、回天の話がキツすぎてずっと刺さってる。あのご時世…いや現代もそうだが、「逃げる」のも勇気が要ることだと思う。「飛ばなくて(特攻しなくて)済むから海軍志願した」と正直にしても、なお、「逃げられない」のか。この時代の野球もボールから「逃げられない」。負傷しても「逃げられない」。敵国語が使えないからセーフを安全と言い換えたりと、どうしたって時代とスポーツは直結していたが、こんなところでリンクしなくたっていいじゃないか。
演技面ではキャストさんもれなく素晴らしくて良い意味で何も言えない。ああでも、安西のしんたくんは本当にすごい。最後の穂積特攻のシーンが目に焼き付いて離れない。テニミュとるひまシリーズくらいでしか見てないんだけど、しんたくんの演技大好きなんだよなぁ。
OPのあの未来に届かなかった、野球のたった一試合の中で生きる彼らがあまりにもまぶしくて、しんどくて。もう一度物語を追うには勇気がいる。そんな舞台だった。
★★★★
*1:ちなみに『見上げればあの日と同じ空』は私の観劇人生で少なくともトップ10には入るくらい大好きな舞台でオススメです。私はどちらかというと初演が好き。DVD完売してるし、いつか再再演しないかなとずっと思ってる。